畑を耕し、立ち寄る人と季節を語らい、花を愛で、食事をつくり、余った野菜をとっておき、
月に一度、ご近所のお年寄りのためにスープをこしらえて届ける暮らし。

そこにあるのは、誰かのために日々を楽しむ毎日。

建主のHさんは、この行事に『月末スープ』と名付けて、毎日を楽しく暮らしています。

そのことを朗らかな笑顔で話すHさんを見ていると、
多くの生命を取り上げてきた人の、神聖で凛としたたたずまいに癒されてしまいます。

リビング

『月末スープの家』は、足るを知り、無功徳に生きるHさんのための5.5坪の平屋。

それは、〝今、此処〟の境地で暮らす人が出会った、必要にして最小限の空間なのだと思います。

リビング

落ち着いた漆喰壁の先の、小さな教会を思わせる清楚で広々とした空間。

冬の陽射しが輝きを放ち、それだけで室内を暖かくします。

リビング

キッチンはこの住まいのサンクチュアリ(聖域)。

タイルや無垢板の棚、照明器具も好きな物で設えました。

キッチンの写真

リビング

リビング

風の時代と言われる今、すべての価値が洗い直され、
アスタリスクの付いた幸福や平和というものに自問自答する人が増えています。

自分自身の羅針盤を足元に掘って、自分が正しいと思う道へと向かって歩き出す
そんな生き方を選択する人が多くなってきたように思うのです。

本当の意味で、自分を自由に開放するライフスタイルですね。

Hさんと話していると、
日々の楽しみの先に、人生の目的が見えてくるのだと教えられました。

じっくり、ゆっくりでいいから、〝今、此処〟を楽しみ、笑って生きていたら、
スープで温まるお年寄りたちが居るように、
いつかどこかで、きっと誰かが喜んでくれるのだと感じるのです。

リビング

この平屋には、ロフトが付いていて、
そこを寝室にすることもできるのですが、Hさんはその場所を収納にするのだそうです。

キッチンは幅2400mmのスタンダードサイズ。延床面積5.5坪なのだから
ミニキッチンでいいのでは? と想像される方も多いでしょうが、
月末スープを創作するHさんにとってクッキングスペースは最優先の場所。
言わば聖域です。調理の神様が降りてくる神聖な場所ですから疎かにはできません!
だからこそ、最低でもこのスタンダートサイズが必要だったのです。

リビング

リビング

ミニマムな空間でも、日々の楽しみを好きな処にレイアウトすると、
目的に叶った住まいになります。そして、暮らすための設えのある家が誕生します。

〝住まいは人生を変える最高の道具である〟という思想は自明なのです。

リビング

リビング

今、人生を選ぶのは、自分。

在るのは、自由。日々の楽しみだけです。